2012年03月19日

二冊の本

本日,新刊されたばかりの『水平社宣言の熱と光』(朝治武・守安敏司編)が送付されてきた。

本書の「序 水平社宣言を問う意味」で守安氏が「多くの部落史や水平社運動史に関する著作でも,必ずと言っていいほど触れられてきました。しかし全水創立宣言そのものを論じた著作は,必ずしも多いとは言えません」と述べているように,「水平社宣言」に関する研究書は少ない。

私も,石瀧豊美先生の研究をベースにして拙い一文を書いているが,それは「水平社宣言」を教材化するためのテクスト分析でしかない。
自分でも不十分と感じているし,水平社に関して自分なりにまとめ,もう一度「水平社宣言」そのものを考察してみたいと思っている。

本書は,そのための指標となると思う。

私が「水平社宣言」について,その深い意味を探ろうと思ったきっかけは,西口敏夫氏の『詩集 水平社宣言賛歌』である。全同教奈良大会の時と記憶しているが,この詩集がポスターになっていて,一字一句に深く感動したのがきっかけである。その後に,西口氏の詩集も購入し,あらためて「水平社宣言」のすばらしさと,その影響の深さを感じた。

だから,今でも「水平社運動史」や「部落解放史」としてではなく「水平社宣言」そのものを味わいたい,深く考察したいという思いが強い。歴史的背景や水平社運動史に位置づけての考察も重要であるが,思想よりも一字一句に込められた西光万吉や平野小劔たちの思い,受けとめた部落民の思いを分析したい。

届いたばかりで斜め読みでしかない。時間ができたとき,ゆっくりと読み込んでみたいと思っている。


久々に紀伊國屋書店に立ち寄ってみた。時間があったのでゆっくりと店内を歩くことができ,いつもは素通りの雑誌コーナーで,『歴史REAL』の新刊(vol.6「江戸大研究」徳川幕府が続いた10の理由)が出ていたので購入した。
従来ならこのような雑誌にはあまり書かれなかった被差別民のことが「特集」(理由の1つ)として取り上げられ,詳しく記述されていた。

「社会保障システムの鍵を握っていた被差別民」(浦本誉至史)である。

江戸の被差別民は,たしかに身分による差別は受けていたものの,庶民のなかに溶け込み,江戸の治安維持・管理,皮革産業,芸能などを担う存在だった。とりわけ,貧困問題では,ひとかたならぬ貢献で江戸社会の崩壊を防いでいた。

これは,最初に書かれている本文の内容を紹介している要約であるが,従来とは異なる視点から被差別民を描いていて興味深い。

被差別民は,江戸の社会ではたしかに少数派であったし,身分差別もされていた。
しかし,一方で身分分業制によってある種の「特権」を保有し,江戸社会の一員として社会的役割を担ってきた。それは被差別民に限ったことではなく,各身分の人々がそれぞれに自らの役割を果たしてきたのである。だからこそ,江戸は,当時世界でも類を見ない巨大都市でありえたし,260年もの長きにわたり繁栄を享受したのである。その意味で,被差別民の社会を欠いては大都市江戸は成立しなかった,といっても言い過ぎではない。

このことに異論はない。そのとおりと思う。同様のことを私も主張してきた。
ただ,だからといって被差別民が百姓や町人など他身分の人々あるいは社会から差別されていなかった,賤視されなかった,賤民として扱われなかったか,という発想は短絡的である。

担っていた「社会的役割」の重要性・必要性に格差があり,また社会的評価や価値に高低があったとしても,または「特権」が与えられていたとしても,各身分がそれぞれに個別の社会的役割を担っていた「身分分業制」社会だったに過ぎない。
どれほど「社会に役立つ役割」であったとして,その役割を担った身分の者がそのことにどれほどに誇りを持って取り組んでいたとしても,民衆や社会がそのことに感謝したとしても,身分差別は歴然としてあった。

現在の警察官が民衆から感謝されていることと,江戸時代の被差別民が当時の民衆から差別されていたことは決して矛盾しない。なぜなら「時代」と「社会」がちがうからである。それを混同して判断すべきではない。

江戸時代の治安維持システム・社会保障システムを学び,被差別民の「役割」を正しく知ることは重要であるが,それと同時に彼らを差別した当時の民衆や社会がどのようなものであったかを正しく受けとめ,現在の部落問題や人権問題に生かしていくことが最も大切であると,私は考えている。

posted by 藤田孝志 at 18:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 書籍 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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