2013年03月07日

「悪口」と「批判」

前回に続き,「批判」について考えてみたい。

世の中には独特の考え方をする人がいる。そのような人は,往々にして通常とは異なるその人独自の「表現」や「言葉」を使う。その人独自の解釈による「表現」「言葉」であって,通常の解釈や意味とは異なる。誰にも迷惑をかけない「独り言」程度の「言葉遊び」ならば,それもよかろうが,自己流の解釈と「表現」「言葉」によって他者に不快感をあたえている場合,それは誰にとっても迷惑でしかない。

池田晶子さんの『考える日々』に,次の一文がある。

…「批評」と「悪口」の違いを,わかっていない。ていよくは「批判」と言われたりもするが,もしもそれが正当な批判であるなら,批判の基準は客観性にあるはずである。
ところで,客観性とは,主観性ではないから客観性というのであって,いつどこで誰が考えてもそのようであるというその基準は,したがって,批判しているその人には,その意味では無関係である。また,批判されるその人にも,同じ意味で無関係である。そこで正当に批判されるべきなのは,つねに,「考え」,誰のものでもなく,したがって誰のものでもあるその「考え」だけのはずである。なぜ,誰であるかが問題か。
誰であるか,が問題である人が多いように思う。「考え」と「人」とを,うまく分けられないのだろう。分けられないから,その人の「考え」を批判しているうちに,「その人」が気に入らなくなってくる。気に入らないなら,ほっときやいいのに,ほっておけずに悪く言う。言論の人々,これを「批判」というのらしい。悪口とは違うと思うのらしい。
わざわざ自分の人生の時間を割いて,他人の考えを批判するからには,それが世のため人のためでなければウソであろう。その人を叩きたいがために叩いているような意見を,世の人はまず聞いていない。みんなそんなに暇ではないのである。
ところが,ここが面白いのだが,言論の人々,自分たちの論戦の雌雄を決することが,世界と歴史を決することだと,深く思い込んでいる。だんだんと思い込むようになるのだろう。すでに感情の泥仕合と化しているもの,アイツを叩くことが世界と歴史を決することでなければ,公である手前,引っ込みがつかないとやはり感じるのだろう。
しかし,そんなことは,ないのである。アイツは世界ではないのである。井のなかの言論戦とは無関係に,世界と歴史は本日も滞りなく,その歩みを進めている。

(言論の中の「悪口」と「批判」)

この一文を読みながら,思い出されることがある。なるほど,そういうわけだったのか,と妙に納得してしまった。


ブログが普及した結果,誰もが一端の評論家のように世情や物事に対して意見を述べたり,批評を書いたりする。これ自体に何の問題もないが,中に「論文」「批判検証」と諄いほどに言い訳を書きながら,実際は他者に対する「悪口」「揶揄」「愚弄」でしかないブログもある。感情にまかせて言いたい放題,他者の人権など無視である。それに引き替え,自分の人権だけは主張する。何とも自分勝手な言い分と思う。

私に関しても好き放題に書いている人がいるが,何一つとして私が納得する内容はない。論争をする気にもならないほどの的外れな内容である。論理そのものが,よく言えば推量だが,実際は臆測でしかない。あまりも稚拙な邪推である。
一度も会ったことも話したこともない人間に関して,何年間も悪口雑言を書き続ける無神経さと執念深さに辟易してきた。その独善的な解釈(曲解)は,結論ありきが前提で,その結論につながるように何事も解釈していく手法は論理ではない。書かれている本人が思ってもないことや考えてもないことを断言され,事実でないことを事実であると断定され,唖然とした。
これって「批判」なのか?どう考えても「悪口」(しかも独断と偏見から)であって,根拠も曲解でしかない。

人間,相性もある。意見や考えの相違もある。好き嫌いもある。気に入らないことも多々あるだろうが,池田さんが言うように,「考え」と「人」を分けられないのだろう。

どれほど高尚な論述をしていようとも,正当な提唱であろうとも,その文章表現に他者に対する尊重もなく,他者の「人」(人格・人間性)に対して悪意ある揶揄・愚弄を書くならば,それは「批判」ではなく「悪口」でしかない。


ここ1ヶ月ほど,ハンセン病一筋に医療に携わってこられた犀川一夫氏の書かれた自伝的な回想録『門は開かれて』『ハンセン病医療ひとすじ』を耽読していた。

彼は光田健輔の愛弟子であるが,隔離政策に反対し,光田退職後に愛生園を去り,海外や沖縄での外来治療方式を推進した。

彼の著書を読みながら,不快感がまったくなかった。むしろ清々しさ,人と人との交流の温かさを強く感じる。人に対する「視線」がちがうのだろう。
彼の著書には「批判」はあっても「悪口」はない。

posted by 藤田孝志 at 01:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 断章と雑感 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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